健康は睡眠の姿勢で決まる

この10年で、日本人成人のウォーキング人口は右肩上がりに増加しています。国民の2人に1人がウォーキングを経験しているといわれるほどです。

颯爽と風を切って歩く姿は、背筋が伸びていて健康の象徴のようです。実際に、積極的に日常生活の中に定期的な運動を取り入れるのはとてもよいことです。

しかし、ちょっと考えてみてください。起きて活動している時だけが健康増進のタイミングでしょうか。たとえば、1日のうち、昼間の1時間を健康的に運動し、夜の7時間を不良な睡眠姿勢で寝ていたとしたら、これも総合点では健康といえるのでしょうか。

寝ている夜の時間こそが疾患の原因を作り、反対に、疾患を治す治療の時間でもあります。肩こりの原因が枕だという人も本当に多いものです。つらい痛みや症状のない体、本当の意味での健康な体を目指すのなら、睡眠姿勢にもぜひ興味を持っていただきたいと思います。

じつは、睡眠姿勢に興味が出てくると、マスメディアの情報が目に飛び込むようになってきます。そこには、多岐にわたる情報があふれ、モノが百花繚乱にあふれ返っています。

とくにインターネットが普及した現代は、モノ選びだけではなく、選び方の基準や評価方法についての情報も氾濫しています。ですから、何を信じて選んだらよいのか、わけがわからなくなる人も少なくありません。

「有名人の○○さんが使用してる枕はどうですか?」「スポーツ選手が愛用するマットレスなら間違いないですよね?」「自分に合ったベッドがいくらぐらいで買えますか?」と質問する人が多いのです。

情報がないのは困りますが、情報が氾濫するのはもっと怖いかもしれません。

「自分に合う寝具は、ぽんと買ってきて終わりはありません。必ず微調節や工大が必要です。うたい文句に惑わされず、基本の条件を踏まえて自分で調節しましょう」といいたくなります。

 

睡眠段階の切り替えスイッチは寝返り

1953年、米国シカゴ大学のアゼリンスキーは、睡眠学の権威クライトマン教授の下で、レム睡眠を発見しました。

私たちの眠りには、このレム睡眠の状態の時と、そうでない状態の時があります。これをノンレム睡眠と読んで明確に区別しています。

レム睡眠とは、体はぐったり休んでいるけれど、脳は活性化した状態で、心と体の疲労回復を担います。

一方、ノンレム睡眠では脳はしっかり休んでいますが、体は筋肉の緊張が保たれていますから行儀よく眠っています。このノンレム睡眠には、浅い眠りから深い眠りまでの4段階があります。

そして、一晩に20~30回も打つ寝返りが、このノンレム睡眠の段階をスムーズに移行させるスイッチのような役割を持つともいわれています。

 

「ヒトはなぜ眠るのか」解明されていない

2010年の国民生活調査によれば、日本人の平均睡眠時間は平日で7時間14分です。

2012年の厚生労働省の調査によれば、日本人の平均寿命は女性が86.41歳(世界1位)、男性が79.94歳(世界5位)となっています。

単純に計算すると、7時間14分(2万6040秒)×365日×男女平均寿命83年=7億8888万秒を私たちは眠りに費やすことになります。

この多大なる人生の時間に興味を持だない人は、人生の3分の1を放棄しているに等しいといえます。

地球上のすべてのヒトは、生命を維持するために睡眠を取ります。睡眠は単なる活動の停止ではなく、生命に必須の生理機能を営んでいるのです。

しかしながら、ヒトがなぜ眠るのかについては、すべてが解明されたわけではありません。まだまだ未解明のことが多いのです。

ここで、近年の国民生活調査を見てみましょう。この調査では、日本人の平均睡眠時間の短縮と就寝時刻の遅延が明らかになりました。また、成人の約21.4%、つまり5人に1人が何らかの不眠に悩んでいます。2500万人以上の日本人が不眠症と推定されているそうです。

私たち現代人は、人間本来の生物としての活動時間をはるかに越えて活動しています。

しかも、昼の間に活動して夜になったら休息するという昼行性の哺乳類の特徴をかなり無視して生活し続けているのです。

そう考えると、今後はますます睡眠を生物学、生理学、遺伝子工学などの睡眠科学として、医歯薬学的に研究するのはもちろんのこと、社会学的にも研究し、ヒトの睡眠と睡眠障害について解明する必要性がありそうです。

 

簡単にできる、ベッドや敷きぶとんの適合チェックと対策

腰や肩に特別な疾患はないのに、朝目、が覚めると腰が痛い、枕を整えても肩こりが取れないなどと感じる人は、使っている敷きぶとんやベッドの見直しが必要です。

チェック方法は簡単です。自分の今使っている枕を、使っている敷きぶとん、もしくはベッドの上に置いて、寝返りをしてみてください。

枕のタオルケットを1枚ずつ微調節しても、腰が重くて寝返りできない、横向きになると肩に圧迫を感じるという時は、敷きぶとんやベッドに問題がある可能性が大です。

対策はケースによって異なります。

①仰臥位で胸や腰が突き上げられる硬さを感じ、側臥位では肩が圧迫され、寝返りがぎこちないケースー敷きぶとんやベッドが硬過ぎです。敷きぶとんなら2枚重ねにしたり、ベッドならやや厚め(1mm以上)の敷きパッドを使って、少し軟らかさを出してください。

②腰が沈むような軟らかさを感じて寝返りしにくいケースー基本的に今使っているふとんやベッドでの調節は困難です。硬めの敷きぶとんやベッドを準備し、①のように調節してください。

 

寝台実験の開始

早速、研究室にウォーターベッド、コイルベッド、ウレタン各種のマットレスなどを運び込みました。自宅の寝室にも4台のベッドやふとんを敷きつめて、寝台実験が始まりました。

色々な人の協力も得て、研究室に男女別の合宿をしたり、自宅に試作ベッドを運搬しモニタリングしたりしました。毎晩のように6~7時間の睡眠中のビデオ撮影も行いました。

実験の翌朝は起きたらすぐに、就寝前、就寝中、就寝後のレポートを記入してもらいます。その量は半端でなく、遅刻するのではないかというくらい大変な量を、みんな熱心に記録してくれました。

私自身もこの実験には何度も参加しています。今では趣味といえるほどかもしれません。

このビデオデータは一つひとつ丁寧に解析し、睡眠姿勢、睡眠位置、寝返り状況、異常行動はないかなど詳細を記録します。この解析結果によって、これまでの論文や書籍にはない貴重な結果を得ることができました。

その結果については、後ほど詳しくにご紹介します。

 

自分の体に合ったベッドや布団がない

自分ででベッドやふとんなどの寝具の調節を開始したのは7年ほど前になりますが、当時からなかなか大変な思いをしました。でも今では、苦労話も自分から話せるようになりました。

ベッドや布団は、枕のように頭頸部だけに焦点を絞って合わせるものと違い、胸、腰、骨盤、足のいずれにも適合する必要があります。そのためには、何をどうやって組み合わせるべきか、まったくの暗中模索でした。

そんなモヤモヤした気持ちを吹っ切りたいと、ある日、前向きにこう考えることにしました。「理屈で考えていても仕方がない。いろんな人に研究の協力者になっていただき、一緒に試行錯誤しよう」と。

早速、協力を快諾いただいた人にご自宅からふとんを持参してもらい、自らのふとんの上で枕の調節を行いました。

軟らかいふとんにダメ出しをし、硬過ぎるふとんには羊毛の厚手の敷きパッドを使うようにアドバイスしました。

駐車場では自家用車からふとんを運び込む光景が見かけられたのですから、ご近所では、あそこは不思議だと、噂になっていたかもしれません。

ベッドを使用している人の場合、さすがにベッドは持参していただけません。寝室を見せてくれる人のお宅に私が直接お邪魔して、寝姿を観察させていただきました。

ともかく、私はベッドのことをたくさん知りたいと思っていました。出張などでホテルや旅館に泊まる日は、部屋に入ったらまずベッドに直行です。

シーツをはがしてベッドマットの商品名、コイル数、ばねのへたり具合や表層ウレタンの傷み具合を入念にチェックします。

最後は実際に寝返りを打って感触を確認していました。こうして調べたベッド数は100を超えました。必ず写真を撮り、マイライブラリーに保管しています。

この地道な作業の積み重ねで、ふとんやベッド調節のノウハウが蓄積していきました。

その一方で、問題点を調節しながら使用するのではなく、根本的に一人ひとりに適合するベッドがなぜないのだろうかと考えるようになりました。

そういうベッドが存在しないのなら自分が創ろうと思い始めていたのです。

 

枕の有効性に限界を感じる

私は枕外来や枕研究所において、黙々と手作り枕の調節や枕計測を行ってきました。

枕の効果がいかに素晴らしいかは、毎日向き合う患者様の表情を見れば一目瞭然です。

しかし、診療所でどんなに枕を調節して適合しても、自宅に帰って一晩寝ると調子が悪くなるという患者様がいます。そう訴える患者様の一人に、診察の時にあるものをご自宅から持ってきてもらい、とうとうその原因を突き止めることができたのです。

それはふとんでした。30万円もしたというご自慢の敷きぶとんは、真っ赤なカバーに金の糸で刺繍が施された豪華なものです。しかし、その敷きぶとんの上に調節した枕を乗せても、ふかふか過ぎてまったく枕と適合しませんでした。

そこで、この患者様には、安くてもいいのでしっかり寝返りの打てる綿の敷きぶとんに替えるようにアドバイスしました。次の診察では綿の敷きぶとんを持参され、枕との適食がすっかり改善していました。

せっかく枕を3~5mm単位で微調節しても、20年以上も使用してコイルの慯んだベッドや、腰が1cm以上も沈んでしまうウレタンのマットレスやふかふかの敷きぶとんでは、寝返りが打ちにくいのです。

この状態では、私たちが目指す「至適睡眠姿勢」とはいえません。至適睡眠姿勢とは、簡潔にいうと、頭から首、胸腰、骨盤、足までを含めて、いかにスムーズに寝返りできる姿勢かということです。

私は枕だけで至適睡眠姿勢を作ることの限界を思い知らされました。